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頭蓋骨のハーモニー

バイオメカニックのトレーニングでは、ハンド ポジションについて厳しく指導されました。

たとえば頭蓋冠ホールド(サザーランド ホールド)と呼ばれる、頭蓋へのハンド ポジションは、どの指がどの骨に触れるのかが決まっていました。

小指は後頭骨、薬指が側頭骨の乳様突起、中指が側頭骨の頬骨弓、人差し指が蝶形骨の大翼、親指が前頭骨。手のひらで頭頂骨。手の小さい人たちが頭の大きいクライアント役とパートナーを組むと「手が…手が…届かない」と言っていました。手や指を柔らかくするコツも、トレーニングの中で紹介され、どうしても届かない場合の対策もありました。

個別の頭蓋骨への触れ方もあり、始めのうちはハンド ポジションを覚えるだけで精一杯でした。その後に、頭に触れると手が勝手に頭蓋冠ホールドを実践するようになるとは、その時は思いもしませんでした。

解剖学などの講義を聴き、実践で覚える。ひとつひとつの頭蓋骨に触れながら、その動きを知覚する練習の日々。後頭骨の動き、前頭骨の動き、頭頂骨の動き…。側頭骨の動きが特に分かりにくかったのは、複数の動きが重なっているからです。

クラニオセイクラル ワークの父とも言えるDr.サザーランドは、側頭骨に興味を持ったことから探求が始まったとされますが、どれくらいの時間をかけて、この骨の動きを特定したんでしょう。それまで大人の頭蓋骨は動かないと信じられていた医学会の中で、本当に動くかどうかを探るのは本当に大変だったろうと思います。

「この骨は」「こう動く」と先に教えてもらい、後はその動きを感じるかどうかの練習という恵まれた環境で学ぶことのできる私たちは、本当にラッキーです。

頭蓋冠ホールドは、頭蓋全体の印象を得るために使えますし、個別の骨がどのように動いているかを調べることにも使えます。そして、それぞれの骨がどのように調和して動いているかを知ることができる基本的なハンド ポジションです。

とは言え、始めのころは、頭蓋冠ホールドで頭に触れながら分かるのは一つの骨の動きだけでした。側頭骨の動きがわかると、それ以外の骨の動きはわからなくなり、前頭骨の動きがわかると、それ以外の骨の動きはわからない。

それでもトレーニングは3ヶ月あったので、毎日練習している間にホールドする手も安定してきて、次のステップが訪れました。前頭骨に触れた親指が前方下方に回転していくような動きと、蝶形骨に触れた人差し指が前方上方に回転していくような、二つの骨が近づいたり離れたりするリズミカルな動きが、同時に手の中にやってきました。

 

これは感動的な瞬間でした。

個別の構造同士が調和しながら動いている。確かに、本には書いてあります。確かに、講義の中で聞いています。確かに、個別に骨は動いています。でも、2つを同時に感じるのは「まったく新しい何か」でした。

その後しばらくして、頭蓋冠ホールドのそれぞれの指を通して個別の骨の動きが同時にわかるようになり、頭全体がどのような状態なのかが、以前よりもずっとわかりやすくなりました。

バイオダイナミクスのアプローチに移行して、今はもっと多くの情報を頭蓋から受け取っていますが、あの時の感動は忘れられません。個別の構造がバラバラではなく、全体として一つのまとまりを持っている感覚。それは「身体は一つのユニットである」とする、オステオパシーの原理を実感できた瞬間だったのだと思います。

先人が発見したことを、もう一度自分自身で発見する。
指標はたくさんあり、まだまだ知らないことがたくさんある。
探求は尽きず、ワクワクする気持ちに終わりはありません。
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プロフィール

木村まや

Author:木村まや
1994年にクラニオセイクラル ワークに出会い、それからずっとこのワークの探求を続けています。

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